1月末に買い付けからもどりました。今回はデンマーク、スウェーデン、ドイツを訪れましたが、ここではドイツのベルリンについて書きたいと思います。
ベルリンには今回初めて行きました。第一印象は人も物も軽くないというか、男性的で質実剛健。そのかわり慣れている北欧にくらべると、怖い人(というか、愛想が良くないだけで悪気はないんだと思う)が多いように感じられました。だいたいその街の第一印象は、空港から街中に向かうバスの運転手のおじさんから切符を買う時や、中央駅のインフォメーションセンターのおばさんから地図をもらう時に決まるのですが、僕の右も左もわかりません的な質問にベルリンはみごとに愛想なく答えてくれました。そしてもうひとつドイツらしいと印象に残ったのは、ホテルの食堂のウエイトレスさんです。まだ女の子という年頃の彼女達はパシっと制服を着ていて、うしろが刈り上がるほどの短いボブカット(やけに80年代っぽいこの子がたぶんリーダー)、ロングヘアーの子はしっかりと髪を結び、僕らが朝食をとっている部屋の壁際に等間隔で手を後ろに組んで立っています。背筋をのばし正面を見つめ、当然ひと言も私語は交わしません。このスタッフの緊張感は僕らが泊まるような安いホテルではめずらしく、無駄のないシステマティックなポーズです。しかし、誰かがフォークを落としたり、飲み物のお代わりをしたいと思って彼女達に目線を投げると、声をかける間もなくテーブルにやってきます。そう、彼女達は見ていないふりをして100パーセント各テーブルの状況を把握しているのです。僕のテーブルマナーも全てお見通しって感じで、これには緊張したけど、このスタイル、ドイツっぽくてかなりカッコ良かったです。
それからもうひとつ。西ベルリンを移動していると、あの「ベルリン、天使の詩」で有名なジーゲスゾイレ(天使の塔。映画が白黒だから気付かなかったけど金色に輝いていました)がいたるところから見え隠れするので、だんだん本当に天使に見守られているような感じになってきます。疲れてカフェなどで休んでいる時に気持ちや体力が回復してくると、「いま天使が僕の肩に触れたかも」とか想像してしまうのです。正直にいうと、その歴史的なイメージからか、ベルリンは重い部分も持っている街で、ネガティブな気分になってしまうことも多かったような気がします。そんな街をテーマに物語をつくろうとした時に、西とか東とかの意味に縛られず自由に壁を行き来できる天使がいて、その街に暮らす人達を励まし、自分も人間になって生命を全うしたいと願うあの映画、これってすごく愛に溢れたストーリーだったんだと気付きました。きっと当時ベルリンに暮らす人達はもっと重い現実感の中で生活していたろうから、この映画に元気づけられた人は多いんじゃないかと想像します。一方、当時日本に暮らす高校生(自分のことです)が初めてこの映画を観た時、モノクロ映像の中の寂しそうな老人やド近眼の子供、寒そうな空き地とか落書きだらけの壁、場末のサーカスやライブハウス(後ろでギターを弾いているノイバウテンのブリクサに釘づけでした。でも、あの2人が出会うラストシーンがこのライブハウスというのは、今でもミスマッチのように思います)という断片的で地味な印象しか残らず、何かカッコ良いなとは思ったけど、大きな愛のメッセージは伝わってきませんでした。やっぱり行かないとわからないものです。今さらながら、ヴィムベンダースのメッセージに感動です。
ということで、今回はお店などの使える情報ではなくなってしまいました。ほんとは安くておいしいピザを見つけたので、それを紹介しようと思っていたのですが、写真がないし上の文章が予想以上に長くなってしまったのでまたにしようと思います。
※ちなみに上の写真は文章とあまり関係がないのですが、東ベルリンを象徴するテレビ塔です。
先週末に買い付けから戻りました。イギリス、デンマーク、スウェーデンとフィンランドを訪れました。前半のイギリスとデンマークは料理研究家の渡辺有子さんと一緒に旅をしていたので、今回は有子さんからみやげ話と写真を頂くことができました。コペンハーゲンに訪れたら是非、自転車に乗って工芸博物館のカフェに行ってみてください。
○念願の自転車ライフ(2004年11月 渡辺有子)
3年前に初めてデンマークを訪れたときのこと。宿泊先近くで皮の鞄を自転車に下げて歩いているショートカットの女の子をみかけました。短い髪に細めの自転車、彼女はとてもキュートでセンスがよかった。思わず写真に収めました。その翌日、ぜひ行きたいと思っていた工芸博物館のカフェでなんとその彼女が働いていたのです。思わずできない英語で話しかけてみると彼女はスウェーデンから船にのって(自転車も)アルバイトにきているとのことでした。そして前の日に隠し撮りしたことも彼女は気づいていたらしい…。
そんな思い出の工芸博物館。今回は3日滞在のうちに2日も通いました。そして今回は私も憧れの自転車で。そこは展示はもちろんのこと建物自体もステキで気持ちのいい中庭とカフェはいつまでも居たいくらい。カフェはランチに行くのがおすすめ。4~5種類プレートがあってどれもちゃんとおいしい。毎日、自転車に乗って工芸博物館のカフェでエプロンをしめる…。ここで働きたいくらい、大好きな場所です。
ちょっと宣伝です。今月「ボサノヴァ」というタイトルの本とCDが発売されました。これはサンクの保里正人(自分です)とバールボッサの林伸次(2人あわせてB5ブックスです)が企画して、CDはユニバーサルミュージック、本はアノニマ・スタジオから出版されました。2つは同ジャケット、同サイズの兄弟企画です。自分でもなかなか良いものができたんじゃないかと思っているのですが、どこかで見かけたらぜひ手にとってみてください。もちろんサンクでもお取り扱いしています。
では、本とCDの解説をさせてもらいます。
まずはジャケットについて。このデザイン、まるでエレンコです。エレンコとはボサノヴァのヴィジュアル・イメージを決めてしまった60年代のブラジルの音楽レーベルなのですが、僕はここの低予算(2色刷り)でシンプルなジャケット・デザインが大好きです(本の中のエレンコ・ディスク・ガイドでもジャケット写真をたくさん掲載したのですが、残念ながらモノクロです)。イラストは寺坂好市さんに描いてもらいました。本もCDもエレンコへのリスペクトを込めて外側はスカッとM版とスミの2色ですが、中を開くと内側にはホコリっぽいアナログ・レコードが棚に並んでいます。レコードを集めたりしている人はこういう感じ分かってくれるかなと思ってデザインしました。
次にCD。選曲すごくいいです。あえてコマーシャルなボサノヴァははずしてあります。選曲した林くん曰く「室内楽ボサノヴァ」です。渋谷にある林くんのワイン・バーでは毎晩こんなにシックなボサノヴァが流れているのですが、お酒を飲まないところでも充分に雰囲気のあるBGMになると思います。もちろん、ボサノヴァに詳しい人が聴いてもグッときちゃう内容です。僕は6曲目のクアルテート・エン・シーがハモるガロートのメロディーが聞こえてくると仕事が手に付かなくなります。
そして本です。コンセプトは本気じゃないボサノヴァ好きのための教科書です。たぶん一緒に作った林くんはボサノヴァやブラジルについてかなり詳しいはずなのに、普段はあまりマニアックなところを見せてくれません。そんな林くんがときどき僕(ボサノヴァにはそんなに詳しくありません)に話してくれるボサノヴァ豆知識を本にできたらと思って構成していきました。今までは少し専門的な本じゃないと知ることのできなかったボサノヴァ人たちの人間模様や、見ることのできなかった貴重な写真を満載したつもりです(上の写真はデビュー直前のナラ・レオンです。あと、ちょっとデカすぎる魚を釣り上げた写真もさすがブラジルって感じで大好きです)。だから決してマニアックでこむずかしい音楽の本ではないので、気負わずに読んでくれたら嬉しいです。きっと読み終わると今まで聴いていたCDがちょっと違って聞こえたりするんじゃないかと思います。